開催趣旨
計算機を使った研究は、 高エネルギー物理学から物性物理学まで、 幅広い物理学の分野で重要な役割を担っています。 モンテカルロ法、 第一原理計算、 テンソルネットワークなど従来から活用されている手法に加え、 機械学習や量子計算などの新機軸も注目を浴びています。 また、 プログラミングの観点からは、 テスト駆動型開発などのソフトウェア工学の導入、 Juliaなどの最新のプログラミング言語の普及が進んでいます。 これら多彩な計算理論やプログラミング開発技術の普及を促進するには、 高エネルギー、 物性などの分野の垣根を超えた交流の場が必要と私たちは考えました。
そこで、 物理学分野の若手育成および人材交流を目的として、 以下の通り、 「計算物理 春の学校 2024」を開催します。 今回は数値計算の入門的な講義から、 実際の計算機や計算手法を用いたハンズオン、 量子計算や機械学習に関する 最先端の話題まで幅広く取り上げます。 機械学習、 量子計算だけではなく、 計算物理全般に興味を持つ幅広い層の方々の研究に役立つことを期待しています。
スクールの主なターゲットは大学院生や若手ポスドク研究員ですが、 上記テーマに興味をお持ちの方でしたらどなたでも歓迎いたします。
会場/日程
- 会場: 沖縄県市町村自治会館
- 開催方式: 対面とオンラインのハイブリッド形式 (ただし、対面がメイン)
- 日程: 2024年3月11日 (月) - 15日 (金)
参加登録
現地参加の登録は こちら
オンライン参加の登録は こちら
参加登録受付期間
-
旅費補助申込期間:
2023年11月30日 23:59まで締め切りました。旅費補助対象者は12月24日頃にメールをお送りしました。 -
現地参加申込期間:
2024年01月15日 23:59まで締め切りました。お申込みいただいた方は全員参加いただけます。 - オンライン参加申込期間: 2024年03月10日 23:59まで
参加登録いただいた方には、Slackのワークスペースへの招待メールをお送りしました。Slackのワークスペースへの参加をお願いします。招待メールが届いていない方はお問い合わせメールアドレスまでお知らせください。
参加登録の際には以下の注意点をお読みください。
旅費補助等について
希望者には以下の要領で旅費補助を行う場合があります。
- 交通費は25,000円を上限として補助
- 宿泊施設としてスマイルホテル那覇シティリゾートを用意(相部屋となります。直前にキャンセルされた場合、キャンセル料が発生する場合があります。)
- 宿泊場所を別に手配する場合、宿泊費は一律1泊3500円支給
- 学振等財源をお持ちの方はご遠慮ください
懇親会について
3/13 (水) ポスターセッション終了後、懇親会の開催を予定しております。詳しくはこちらをご覧ください。
プログラム
時間割
時間 | 3/11 (月) | 3/12 (火) | 3/13 (水) | 3/14 (木) | 3/15 (金) |
---|---|---|---|---|---|
09:00 | 10:30 |
共通講義(1-1) (寺崎敏志) |
個別講義(2-1) (津田宏治) (永井瞭) (関口雄一郎) (NVIDIA) |
グループセミナー |
共通講義(4-1) (今泉允聡) |
個別講義(5-1) (諏訪秀麿) (伊藤悦子) (品岡寛) (山崎隼汰) |
11:00 | 12:30 |
|||||
14:30 | 16:00 |
共通講義(1-2) (井戸康太) |
個別講義(2-2) (原田健自) (杉﨑研司) (南谷英美) |
ポスターセッション |
共通講義(4-2) (小嶋涼太) |
個別講義(5-2) (野村悠祐) (村上雄太) (吉田聡太) |
16:30 | 18:00 |
|||||
18:30 | |
企業紹介 | 懇親会 |
動画公開用 Youtube チャンネル
プログラムは大きく分けて講義と研究会 (ポスターセッション) の2つに分かれます。
[講義]
講義は単独で行う共通講義と、 複数同時に行う個別講義を実施します。
講義は以下の通りです。
講義の映像につきましては、動画公開用 Youtube チャンネルをご覧ください。
3/11 (月) 9:00 - 18:00
<共通講義>
- Juliaを使ったソフトウェア開発入門
- 講師: 寺崎敏志 (AtelierArith)
-
概要: 本講義では計算物理春の学校を受講する上で基礎となるプログラミング・ソフトウェア開発の基礎を学ぶ.
講義の前半は研究開発のために行うソフトウェア開発のワークフローを紹介する. 具体的にはソースコードを管理する Git および Git リポジトリをオンラインで管理する. GitHub の使い方について触れる.また GitHub は他者とのコラボレーションを可能とするプラットフォームの役割を果たすことを理解するために 事前に用意したリポジトリに対してプルリクエストを送りコントリビューションをすることを 体験する.受講者は与えられたツールを単に利用する立場から脱却し,我々は個々の能力を外部に発信する機会が与えられており, 作る側・造る側・創る側の立場になれることを実感できるだろう.これらのワークフローは開発初期のクローズドな環境でも利用できる. 受講の際に得られた知識を今後の研究活動の促進に役立ってもらいたい.
講義の後半は前半に触れたワークフローを実践する材料としてプログラミング言語 Julia を用いる.小規模な開発を VS Code,Pluto Notebook上で行いプロトタイプの作成,実装,テストの記述のサイクルを行う効率よく行う方法を紹介する.必要に応じて Python,Jupyter Notebook も含めたハンズオン・ライブコーディングもする. 講義に用いるノート,環境構築に関するノートはなるべく公開する予定である.各自の今後の学習に役に立ってほしいと考えている. 計算物理の研究室ではソフトウェアは単にツール・道具とみなされ体系的な学習リソースに出会える機会が少なく, 個々のアドホックなスキルの習得によって苦痛を味わいながら研究を進めざるを得ないのが現実である. 本講義がそういった課題の解決にいくつか解決・貢献できれば幸いである. - 変分モンテカルロ法入門 & mVMCハンズオン
- 講師: 井戸康太 (東京大学)
- 概要: 変分モンテカルロ法は、分子や固体といった様々な量子多体系を多体相関を取り入れて解析できる柔軟な数値計算手法の一つである。本講義では、量子多体系の基礎について触れたのち、変分モンテカルロ法の概要について述べる。また、量子格子系を取り扱えるオープンソースソフトウェアmVMCを紹介したのちmVMCを用いたハンズオン実習を行う。
-
事前準備:実習では、物質科学関連のソフトウェアがプレインストールされているLinux環境 MateriAppsLIVE!を用いる。下記リンク先の指示に従い、docker版もしくはvirtual box版の MateriApps LIVE!を起動できるようにすること。MateriApps LIVE!上でgnuplotを起動し、グラフが出力されるかを確認することが望ましい。
https://github.com/cmsi/MateriAppsLive/wiki/OnlineTutorial - 企業紹介
<企業紹介 18:00 - 18:30>
-
協賛いただいた企業様から企業紹介をしていただきます。
3/12 (火) 9:00 - 18:00
<個別講義 9:00 - 12:30>
- ベイズ最適化入門
- 講師: 津田宏治 (東京大学)
- 概要: ベイズ最適化は、自動材料設計や、実験パラメータ最適化などに用いられる機械学習手法である。本講義では、ベイズ最適化の理論と応用に関して紹介を行った後、東大物性研と共に開発したソフトウエアPHYSBOの実習を行う。
- 機械学習による原子・電子シミュレーションの精度向上
- 講師: 永井瞭 (PFN)
-
概要: 本講義では、計算シミュレーションと機械学習の融合領域である次の2つのテーマについての概要を解説します。初学者向けの内容を予定していますが、前提知識として密度汎関数理論(DFT) と分子動力学法(MD)について、および機械学習について軽く予習しておいていただけるとスムー ズに理解が進みます。
1. 機械学習を用いた(DFT)の精度向上について。DFTは様々な物質の電子状態を計算する上 で標準的な理論ですが、近似しなければならない項を含んでいます。この項を機械学習技術を用いて、データによるアプローチで系統的に近似する方法を紹介します。
2. ニューラルネットワークポテンシャル(NNP)について。物質の原子レベルでの構造推定やMDなどを行う際に、精度のいい原子間のポテンシャルは重要です。しかし、原子同士の相互作用の形は元素の組み合わせや位置関係により複雑に決定されるため、簡単な関数系では模倣できません。この講義ではポテンシャルを機械学習によって記述するNNPの代表的な手法について紹介します。また、汎用NNPを提供しているプラットフォームであるMatlantisにブラウザからアクセスし、簡単な計算を行うハンズオンも実施予定です。(急遽中止になる場合があります)
- 数値相対論入門
- 講師: 関口雄一郎 (東邦大学)
- 概要: 2015年に米国の重力波望遠鏡Advanced LIGOが史上初めて重力波の直接検出に成功し、重力波天文学の時代が到来した。発生日をとってGW150915と名付けられたこのイベントは、連星ブラックホール合体からの重力波であった。つづく2017年8月17日、連星中性子星合体からの重力波イベントGW170817が観測され、それに付随した電磁波対応天体もガンマ線から電波にわたる多波長で観測され「マルチメッセンジャー天文学」が開拓された。これら新時代の観測によって、今後、宇宙の新たな知見が得られるものと期待されるが、その展開においては、重力波源の理論的理解が極めて重要となる。強重力天体である重力波源の理解には、重力場の基礎方程式であるEinstein方程式に加え、一般相対性理論の枠組みで物質場(流体場)の方程式を解く必要がある。科学的に興味のある場合について、これら非線形連立偏微分方程式の解析解を求めることは不可能であり、したがって、数値的手法が必要不可欠となる.本講義では、数値相対論と呼ばれるこの分野について、その固有の問題点に焦点を当てながら概観するともに、物質場について流体力学方程式の解法について説明する。時間が許せば、後者についての簡単な実習も行う予定である。
- GPUコンピューティング入門&ハンズオン
- 講師: (NVIDIA)
- 概要: GPU コンピューティングのベースとなる GPU のアーキテクチャを、 そのプログラミング環境である CUDA などを通して概説する。 ハンズオンでは、サンプル コードを用いて Python による GPU コンピューティングを体験する。
- 講義方法: 実習部分は対面でのみ参加可能(オンラインでも資料の閲覧は可能)
- 実習の前提: 実習には筑波大学計算科学研究センターの Cygnus を使用するので、基本的な Linux の操作ができることを前提します
<個別講義 14:30 - 18:00>
- テンソルネットワーク入門
- 講師: 原田健自 (京都大学)
- 概要: 多くの分野で活用されはじめたテンソルネットワーク形式の一般論から初めて、量子多体系の基底状態計算のためのテンソルネットワークを用いた代表的な手法と計算技術(テンソル縮約・自動微分)の解説をし、pythonを用いた実習を行う.
- 量子計算化学入門
- 講師: 杉﨑研司 (慶應大学)
- 概要: 本講義ではBorn-Oppenheimer近似のもとで分子の電子状態を求める第一原理量子化学計算および量子化学計算を量子コンピュータで実行するための量子アルゴリズムについて述べる。講義ではまず量子化学計算の概要について述べ、次に量子コンピュータの動作原理と基礎的な量子アルゴリズムについて紹介する。最後に量子化学計算のための量子アルゴリズムとして量子位相推定と、時間があれば変分量子アルゴリズム(VQE)についても紹介する予定である。
- 材料科学へのパーシステントホモロジー応用
- 講師: 南谷英美 (大阪大学)
- 概要: 最近、トポロジカルデータ解析の代表的な手法、パーシステントホモロジーが情報分野のみならず、物理学、特に材料科学の分野で注目されています。パーシステントホモロジーを用いると、例えばガラスのような複雑な構造に潜むパターンの抽出や、新しい視点での原子構造の特徴づけが可能になります。本講義では、このパーシステントホモロジーの基礎や材料科学への応用を紹介します。座学に加え、後半では実際の物質でのデータを使ったパーシステントホモロジーによる構造の解析と、そのデータを用いた物性予測の実習を予定しています。実習で用いる言語はpythonです。
- 講義の前提知識:パーシステントホモロジーの基礎については講義中で説明します。一方で、材料科学における計算方法の基礎までは紹介する時間がないので、材料分野における一般的な計算技法 (第一原理計算・分子動力学) について少し知識があるとパーシステントホモロジーとどのように組み合わせて用いることができるか理解しやすいと思います。
- 事前準備: https://homcloud.dev の説明を読み、自分のPC上のpython仮想環境にインストールすることをおすすめします。 (日本語で説明がされておりわかりやすいです)。なお、後半の実習で使うプログラムではhomcloudに加えて、ASE、numpy、scikit-learnを使用する予定ですので、これらも事前にインストールしておくと便利です。実習で用いるサンプルプログラムは https://github.com/eminamitani/spring_school_2024 にて公開予定です。
3/13 (水) 9:00 - 21:30
<グループセミナー 9:00 - 12:30>
<ポスターセッション 14:30 - 18:00>
既に研究テーマをお持ちの方を対象に、 ポスターセッションを設けます。
- (準備中)
ポスターセッション案内
ポスターセッションで発表される方は、Slackの01-全体連絡にあるフォームからポスター概要の提出をお願いいたします。締め切り 3/4 (月) 23:59
<[懇親会]>
- 日時: 3/13 (水) 18:30 ~ 21:30
- 開催場所: エスパーナ (〒900-0037 沖縄県那覇市辻3丁目2−1)
- 参加費: 1人5,000円 (予定)
3/14 (木) 9:00 - 18:00
<共通講義>
- 深層学習と過剰パラメータの理論
- 講師: 今泉允聡 (東京大学)
-
概要:本講演は二部構成である。前半では、深層学習理論のいくつかの成果を導出する簡易的な演習を行う。深層学習の理論は、各理論の成果を網羅的に知ることはできても、それらの導出過程を確認して理解することは容易ではない。加えて、理論研究はその主張するところだけでなく、成果を導出する過程でモデルやアーキテクチャの性質を理解するということも同様に重要である。ここではこういった知識を提供することを目的とし、特にニューラルネットワークの近似理論に関する基盤的な成果を1〜2個選択した上で導出過程を丁寧に追う。数式を用いた議論を主とするが、適宜図を用いた直感的理解も重要視する。
後半では、深層学習理論のより網羅的な理解を目指して、深層学習や過剰なパラメータを持つ統計モデルの性質を記述する理論を紹介する。ここでは深層学習の誤差を近似・汎化・最適化の三要素に分割し、各要素を解析する個別の研究を紹介する。その後、過剰なパラメータを持つ統計モデルに関する理論の構築とそれがもたらす示唆について議論する。時間に余裕があれば、近年の人工知能技術についての数理的な知見を議論する。 - 量子計算入門
- 講師: 小嶋涼太 (QunaSys)
- 概要: 本講義では量子計算についての事前知識を持たない人を主な対象とし、量子計算の基本やアルゴリズムについて解説します。前半では、量子コンピュータの基礎概念、量子ビット、ゲート操作など量子計算の基本を解説し、後半では、QunaSysが開発している量子計算プロダクトであるQURI Partsを使用してハンズオンセッションを行います。ハンズオンセッションでは量子回路の構成からはじめ、 期待値推定や量子系の実時間発展などを量子コンピュータで実行するためのプログラム方法を解説します。
3/15 (金) 9:00 - 18:00
<個別講義 9:00 - 12:30>
- モンテカルロ法入門から効率的MCMCへ
- 講師: 諏訪秀麿 (東京大学)
-
概要: モンテカルロ法は物理・化学・統計学・工学等さまざまな分野で広く用いられている数値計算手法です。中でもマルコフ連鎖モンテカルロ法(MCMC)は任意の確率分布からのサンプリングを可能とし、多体問題に対する強力な解析手法となっています。しかし実際に興味のある系で、サンプリングが困難になる場合も多々あります。本講義ではモンテカルロ法の基礎から学び、実際に効率的なMCMCを使えるようになることを目指します。効率的なサンプリングを実現するアプローチとして、クラスターアルゴリズム・ハイブリッド(ハミルトニアン)モンテカルロ・レプリカ交換法等を説明します。また後半では、確率の流れを操作して計算効率を改善する最近の研究として、詳細つりあいの破れや遷移確率の最適化についても紹介します。
参考文献
[1] 諏訪 秀麿, 藤堂 眞治, 日本物理学会誌 77(11) 731-739 (2022).
[2] H. Suwa, Physica A 633, 129368 (2024).
- QCDと第一原理計算
- 講師: 伊藤悦子 (京都大学)
- 概要: 量子色力学(QCD)とは、原子核の中に働く「強い力」のミクロな理論です。原子核の中をミクロに見るとクォークという素粒子たちが強く結合しており、この力を記述するのがQCDです。その力は"強い"ため摂動論など解析計算は難しく、その物理現象の理解には数値計算が必要不可欠です。この講義では、これまで40年以上かけて(古典)計算機(=スーパーコンピュータ)を使って明らかになったQCDの非摂動的性質とその計算法(重点サンプリング法)、そして、従来法では「符号問題」が生じて計算できない領域を近年登場した量子計算機によって研究する取り組みについて紹介します。
- Tensor Learning and Physics: Quantics and Tensor Cross Interpolation
- 講師: 品岡寛 (埼玉大学)
-
概要: テンソルネットワークは、物理学における量子システムの波動関数や密度行列を圧縮するための強力なツールです。
しかし、最近の発展により、テンソルネットワーク技術はこれらの伝統的なオブジェクトを超えて、幅広いオブジェクトを圧縮可能なことが示されています。 例えば、ナヴィエ–ストークス方程式における乱流の解 [1] やフェインマンダイアグラムの計算 [2,3] が最近注目されています。 物理学における様々な複雑な方程式の解決を加速するためのツールとしてテンソルネットワークが注目される中、 本講義では最近発展している2つの重要な概念、quantics tensor train (QTT)、tensor cross interpolation (TCI)を紹介します。 QTTとは、指数的に異なる長さスケールが共存する関数をテンソルネットワークとして表現する方法です [4,5]。 QTTは、物理現象に現れる関数 (例えば、場の量子論の時空依存性)に潜むスケール間の分離を利用してデータ圧縮を可能にします [3]。 また、畳み込み積分や、フーリエ変換など、物理の計算に現れる基本的な演算は簡潔なテンソルネットワークの演算として表現できます。 一方、TCIとは、与えられたデータ・関数に潜む低ランク表現を自動的に見つけ出す、適応的な機械学習アルゴリズムです [6,7,2]。 また、QTTと組み合わせることで、多重積分などの演算を指数的に加速することが可能になります [8]。 講師は、QTTやTCIを場の量子論や様々な計算に応用すべく、海外のグループと協力して研究を行っています。
本講義の前半では座学を、後半ではQTT、TCIを実装したライブラリ (Julia/C++/Python) の紹介とハンズオンを行います。 特定の物理分野 (例えば、物性理論)の知識を前提としない、一般的な内容を考えています。
ライブラリの公開は、2月中旬〜下旬を予定しています。
ハンズオンは、Juliaを用いて主に行います。
事前学習 (テンソルネットワークの基本概念)や事前準備 (Juliaのダウンロード)に関する資料は、後日公開予定です。
[1] N. Gourianov et al., Nat. Comput. Sci. 2, 30 (2022).
[2] Y. N. Fernandez et al., PRX 12, 041018 (2022).
[3] H. Shinaoka et al., PRX 13, 021015 (2023); 「Quantics tensor train に基づく多スケール時空仮説と場の量子論」日本物理学会2024年2月号掲載予定
[4] I. V. Oseledets, Dokl. Math. 80, 653 (2009).
[5] B. N. Khoromskij, Constr. Approx. 34, 257 (2011).
[6] I. V. Oseledets, SIAM J. Sci. Comput. 33, 2295 (2011).
[7] S. Dolgov and D. Savostyanov, Comput. Phys. Commun. 246, 106869 (2020).
[8] M. K. Ritter, …, H. Shinaoka and X. Waintal, PRL 132, 056501
- 量子機械学習
- 講師: 山崎隼汰 (東京大学)
-
概要: 量子力学は、原子・弱い光・超伝導物質などのミクロな物理系で起こる自然現象を記述できる普遍的な物理法則です。量子力学で記述される物理系を自在に操作して量子力学に現れる特有の性質をうまく活用できるデバイスがあると、ある種の計算問題を従来の(古典的な)コンピュータよりも大幅に高速に解ける場合があります。このように量子力学特有の性質を活用することで古典コンピュータでは難しい情報処理を行えるデバイスを、量子コンピュータと呼びます。近年の量子技術の発展により、実際に量子力学に特有な性質が現れる物理系を高い精度で操作できるデバイスの開発が進んでいます。こうした中で特に、機械学習に関わる計算問題に対して量子コンピュータの高い計算能力をどう活用できるか解明しようする「量子機械学習」の研究分野が注目を集めています。 こうした研究は、機械学習を通じた情報化社会の将来的な発展のために量子技術をどう活かせるかを明確化するために重要です。
本講義では、量子コンピュータの仕組みや近年の開発状況について解説し、また高速で適用範囲の広い量子機械学習のために量子コンピュータをどのように活用できると考えられるかについて、自身の最近の理論研究による進展もご紹介しながらお話しします。特に量子計算の古典計算に対する優位性を活かして機械学習に重要なタスクを高速化できる場合として、lottery ticket hypothesisと呼ばれる実験事実に基づくニューラルネットワークのパラメータ削減についてご紹介します。また量子機械学習では高速に学習を実行できて古典機械学習では高速に学習を実行できないタスクの構成方法や、またこうした優位性の証明方法についてもご紹介します。
Reference
https://arxiv.org/abs/2301.11936
https://arxiv.org/abs/2312.03057
<個別講義 14:30 - 18:00>
- 人工ニューラルネットワークを用いた量子多体問題の解析
- 講師: 野村悠祐 (慶應大学)
- 概要: クオークやグルーオンを扱う素粒子分野から多電子系を扱う物性分野に至るまで、エネルギースケールに違いはあるものの、強い相関をもつ量子多体系を研究する学問であるという共通点があります。量子性と多体性の兼ね合いによって生じる創発的な量子現象を理解することは各分野に共通するグランドチャレンジとなっています。そのような物理の難問である量子多体問題の解析に機械学習の技術を用いようとする試みが近年なされています。具体的には、人工ニューラルネットワークの持つ柔軟な表現能力を用いて、量子状態を近似する手法となります。そのような試みに関する講義と実習を行います。
- 非平衡動的平均場理論入門
- 講師: 村上雄太 (理化学研究所)
- 概要: 物質を強い外場で駆動することで、平衡状態では思いもよらない物性の創出が可能となる。特に近年、テラヘルツ・中赤外領域の高強度レーザー技術の発展が目覚ましく、様々な条件で物質の励起や観測が可能になってきた。これに伴い、光誘起超伝導、超伝導Higgs モードの観測、固体中の高次高調波発生などの新しい非平衡現象が次々と報告され、多電子系と高強度光が織りなす物理が加速度的に拡がりつつある。これらの興味深い非平衡現象の起源・性質を明らかにするためには、電子間に働く相互作用の効果を理解することが重要となる。しかし一般に非平衡問題と電子相関効果を理論的に同時に扱うことは困難であり、現在でも様々な手法の開発が行われている。本講義では、様々ある手法のうち非平衡グリーン関数法と呼ばれる手法に焦点を当て、その基本的アイデアから最近の発展まで概観する。特に、非平衡グリーン関数法の一種である非平衡動的平均場理論と呼ばれる強相関電子系の取り扱いに適した手法の詳しい解説を予定している。また、非平衡グリーン関数法のためのオープンライブラリNESSi(https://nessi.tuxfamily.org/)を用いた簡単なデモンストレーション/実習も行う予定である。
- NuclearToolkit.jlによる原子核構造計算入門
- 講師: 吉田聡太 (宇都宮大学)
- 概要: 核力や有限量子多体系としての原子核の構造計算(第一原理計算・CI計算)の話題を中心に、代理モデルなど、一般の量子多体系の数値計算においても重要な概念について説明します。講義では、NuclearToolkit.jlという核構造計算のためのJuliaパッケージを用いた実習を交えながら説明を行います。
- 講義資料:https://sotayoshida.github.io/Lecture_CompPhys_SpSchool24/home.html
- 事前準備: JuliaとJupyter環境の事前の導入を推奨します。上記の資料内の環境構築の説明の他、関連する他の講師の方々の資料等も適宜ご参照ください。
昨年の様子
昨年の開催概要や講義資料等につきましては、計算物理春の学校2023ホームページをご覧ください。
また、昨年の講義の映像につきましては、動画公開用 Youtube チャンネルをご覧ください。